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IPOを目指す企業が準備すべき内部統制関連の業務について解説!

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公開日:2024.10.02
最終更新日:2025.04.18
内部統制

IPO(Initial Public Offering)を目指す企業において、内部統制の整備は重要です。本記事では、内部統制報告制度(J-SOX)に沿った対応方法、経営者の役割、そして具体的な準備のプロセスについて、分かりやすく解説しています。

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IPO成功における内部統制の重要性

IPO(Initial Public Offering)は、未上場企業が公開された株式市場で初めて株式の発行や売り出しを行うことを意味します。IPOは、企業にとって転換点となり、新たな成長機会や資金調達の道を開く重要なステップとなります。

しかし、IPOを成功させるためには、多くの課題に取り組まなければなりません。その中でも重要なのが内部統制の整備です。

内部統制とは、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全を目的とした仕組みを指します。

IPOに際して、企業は財務諸表の信頼性を確保する必要があり、それを実現するためには強固な内部統制が不可欠です。また、内部統制は株式公開後の企業運営にも深く関わり、投資家や市場からの信頼を獲得するための鍵となります。

「内部統制の整備」がIPO審査の対象項目である

IPOの過程で、監査人は、企業の内部統制の整備状況や運用状況をチェックします。これは、内部統制が企業の財務報告の信頼性を保証する重要な要素であるためです。

内部統制の構築が不十分な場合、財務報告に誤りが生じる恐れが高まり、投資家の適切な意思決定を阻害する恐れがあります。これは企業の評判を損ない、投資家の信頼を失う結果を招きかねません。

また、証券取引所も、内部監査の結果を閲覧したり、監査人との面談を通じて、内部統制の整備状況や運用状況の審査を実施します。

 上場会社には「内部統制報告書」の提出義務がある

上場を果たした企業には、金融商品取引法によって定められている通り、毎年「内部統制報告書」を提出する義務が課せられます。内部統制報告書は利害関係のない第三者である監査人によって監査されます。

内部統制報告書の提出と監査は、投資家や市場に対して、企業が適切なリスク管理と財務報告の信頼性を維持していることを示すための重要な手段です。

内部統制報告書は、企業経営の透明性を高めることにも寄与します。投資家や利害関係者は、内部統制報告書を通じて、企業の内部統制の状況を理解し、その企業への投資判断の一助とすることが可能です。また、内部統制報告書は企業が市場の規制に適合していることを示す証拠ともなり、市場全体の信頼性と安定性を支える役割を果たします。

IPOにおいて、内部統制の整備は単なる規制の遵守を超え、企業の持続可能性と成長の基盤を築く上で不可欠な要素です。

なぜなら、内部統制の整備と運用は企業の信頼性につながり、それは資金調達にも影響を与える可能性があるからです。この意味で、投資家の信頼を獲得し、市場での成功を収めるためには、内部統制の強化と維持が重要となります。

内部統制整備はIPO審査の項目

内部統制の整備はIPOの審査過程において重要な要素です。IPOを行う企業は、証券取引所および主幹事証券会社による厳格な審査を通過しなければなりません。この審査では、企業の形式基準の充足はもちろん、実質基準においても、企業の内部統制の整備状況や運用状況が重要な評価ポイントです。

以下では、東京証券取引所のグロース市場に上場する場合に満たさなければならない形式基準と実質基準について解説していきます。

IPOのために満たすべき形式基準

IPOのために企業が満たすべき形式基準は上場審査の基礎となります。

形式基準とは、上場する株式数や株主数、利益の額などについて満たしていなければならない数値基準です。

これらの基準には、以下のような要素が含まれます。以下は、グロース市場への新規上場をする際の要件です。

  • 株主数上場時には、150人以上の株主がいることが求められます。
  • 流通株式流通株式数は1000単位以上であること。流通株式時価総額は5億円以上であること。上場株券等の25%以上が流通していること。
  • 公募の実施時価総額が250億円以上となることが見込まれる会社を除き、500単位以上の株券等の公募を行うことが必要です。
  • 事業継続年数最低1年以上、株式会社として継続的に事業活動をしていることが必要です。
  • 監査意見直前々期の監査意見が、無限定適正意見又は除外事項を付した限定付適正意見であること、直前期の監査意見が、無限定適正意見であること、が求められます。
  • 内部統制報告書等申請会社の株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合には、最近1年間に終了する事業年度に係る内部統制報告書において、「評価結果を表明できない」旨の記載がないこと、またそれに係る内部統制監査報告書において「意見の表明をしない」旨の記載がないこと(免除選択している場合を除く)、が求められます。

このように、IPO審査における形式基準は、企業が公開市場で活動するための基本的な資質を確認するために設定されています。

IPOのために満たすべき実質基準

IPOを行うためには、単に形式的な要件を満たすだけでは不十分です。企業は一連の実質基準も満たす必要があり、これらの基準は企業の透明性、健全性、持続可能性を評価するために設計されています。以下に、重要な実質基準の概要を示します。

  • 企業内容、リスク情報等の開示の適切性
    企業は、重大な影響を及ぼす事実や会社情報を適時かつ適切に開示する能力が必要です。これには、内部者取引の未然防止体制の整備も含まれます。また、投資者の判断に影響を及ぼす可能性のある重要なリスク要因や事業計画、成長可能性に関する情報が法令に準じて明確に記載されている必要があります。
  • 企業経営の健全性
    企業は公正かつ忠実に事業を運営していることが求められます。これには、特定の者への不当な利益の供与や享受がないこと、役員の公正で忠実な職務の執行が可能な状況であることなどが含まれます。また、親会社等からの経営活動の独立性も重要な要素です。
  • 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
    適切なコーポレート・ガバナンスと内部管理体制の整備が不可欠です。これには、役員の適正な職務執行のための体制、経営活動の有効な内部管理体制、必要な人員の確保、実態に即した会計処理基準の採用、法令遵守のための体制の整備が含まれます。
  • 事業計画の合理性
    企業は、ビジネスモデル、事業環境、リスク要因を踏まえた合理的な事業計画を策定しており、それを遂行するための事業基盤を整備している、あるいは整備する見込みであることが必要です。
  • その他公益又は投資者保護の観点から必要と認められる事項
    株主の権利内容やその行使の適切性、重大な係争や紛争の不存在、反社会的勢力への関与防止など、公益や投資者保護の観点から重要な事項が適切に取り扱われていることが求められます。

これらの実質基準は、企業が市場に受け入れられるための最低限の条件を示しています。企業は、これらの基準を満たすことによって、投資家や市場参加者からの信頼を得ることができ、持続可能な成長と成功の道を開くことが可能です。IPOプロセスを通じてこれらの基準を満たすことは、単に上場の門をくぐるためだけでなく、長期的な企業価値の向上と企業の健全な成長を確保するためにも不可欠です。

IPOを目指す企業が行うべき内部統制への対応

IPOを目指す企業は、内部統制に関して重要な対応を行う必要があります。特に、内部統制報告制度(J-SOX)に基づく対応は、企業が上場後も持続的な成長と信頼を確保する上で不可欠です。

  • 内部統制報告書の提出義務と監査免除
    新規上場後3年間、企業は「内部統制報告書」に対する監査法人による外部監査の免除を受けられます。これは、新規上場企業が市場に適応し、内部統制体制を確立するための一時的な措置です。しかし、重要なのは、監査が免除されていても、内部統制報告書の提出自体は免除されていない点です。つまり、IPOを目指す企業は、上場後も継続的に内部統制報告書の作成と提出を行わなければなりません。

ただし、厳密には資本金100億円以上、または負債総額1000億円以上の会社は、上記の監査法人による外部監査の免除ができないので留意が必要です。

  • 内部統制の整備と評価
    内部統制の整備は、財務報告の信頼性を高めるために必要です。全社的な内部統制、決算・財務報告プロセスに係る内部統制、その他の業務プロセスに係る内部統制の領域にわたり、有効性を評価することが求められます。これには、取締役会や監査役会や監査等委員会の機能、内部監査の実効性、管理部門の適切な運用、ITシステムの安全性確保などが含まれます。
  • 経営者の役割と組織風土の醸成
    IPO準備段階から経営者は、組織内のコンプライアンス意識の醸成と内部統制体制の構築に尽力する必要があります。これには、経営理念や方針が反映された明確なガバナンス構造の確立、職務分掌の明確化、業務プロセスの適切な管理、経験豊富な従業員の採用などが必要です。
  • 対応の時期と効率的な準備
    IPO準備の初期段階から、企業は業務記述書、フローチャート、リスクコントロールマトリクスの作成に取り組みます。ただし、事業内容や組織構造が安定した後に、IPO後の内部統制報告書提出に向けた具体的な準備を進めることが効果的です。これにより、手戻りを最小限に抑え、効率的に内部統制体制を確立できるようになります。

総じて、IPOを目指す企業は、内部統制の整備と継続的な運用に重点を置き、監査免除期間を経ても、持続的な成長と市場の信頼を獲得するための基盤を固めることが重要です。

全社統制42項目チェックリスト

IPOに向けて内部統制を整備するために理解しておくこと

IPOは、企業が公開市場に株式を流通させる重要な過程です。この過程では、多くの課題が存在しますが、特に重要なのが内部統制の整備です。

内部統制は、企業が効率的かつ効果的に運営され、信頼性の高い財務報告を提供し、適用される法規制と規則に準拠することを保証します。

IPOに成功するためには、内部統制の目的と基本的要素を深く理解し、それを実行に移すことが不可欠です。

内部統制の目的を理解する

内部統制の目的は、業務の有効性および効率化、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全という4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得ることです。

これらの目的は、投資家や他のステークホルダーからの信頼を得るために不可欠であり、IPOプロセスにおいても中心的な役割を果たします。適切な内部統制がなければ、資金の横領や資産の不適切な使用が発生する恐れがあります。

内部統制の基本的要素を理解する

内部統制の目的を達成するためには、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT技術への対応という6つの基本的要素を満たす必要があります。

6つの要素の具体的な内容は以下の通りです。

  • 統制環境: 企業の倫理観や組織文化、リーダーシップの質など、内部統制の基盤となる環境。
  • リスク評価と対応: ビジネスの目標達成を妨げる内部外部のリスクを特定し、評価するプロセス。
  • 統制活動: リスクを軽減するために設計されたポリシーや手続。
  • 情報と伝達: 重要な情報を適切な方法で伝達、共有し、組織全体での理解と対応を促すシステム。
  • モニタリング: 内部統制システムの有効性を定期的に監視し、必要に応じて改善するプロセス。
  • IT技術への対応:組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続を定め、業務の実施において組織内外のITに対して適切に対応すること。

これらの基本的要素を適切に実施することで、IPOプロセスを円滑に進め、成功へと導くことができます。

内部統制報告書の作成までのスケジュール

内部統制報告書の作成に至るまでのスケジュールは、企業が上場を目指すにあたり、重要なプロセスです。ここでは、3月決算の会社のモデルスケジュールを前提として、内部統制報告書の提出のための主要なステップを解説します。

  • 評価計画・評価範囲の策定
    年度初め早々に、年度計画の策定に着手します。ここでは、全社的な内部統制やITに係る全般統制、業務プロセスなどの評価範囲を決定します。この段階では、組織全体のリスクを把握し、どこが評価の対象となるかを明確にすることが求められます。これらの作業は、およそ2~3カ月かけて行われます。
  • 全社的な内部統制の評価
    その後、1カ月から2カ月程度かけて、全社的な内部統制の評価を行います。経営者は企業の方針や統制環境を見直し、ガバナンスやリスク管理のフレームワークが適切かどうかを評価します。
全社統制42項目チェックリスト
  • ITに係る全般統制の評価
    さらに、8月頃から年度末にかけて、ITシステムに関する統制が適切に設計されているかどうか、運用されているかどうかを確認します。これは、財務情報の信頼性を保証するために不可欠な作業です。
  • 業務プロセスに係る内部統制の評価
    ITに係る全般統制の評価と同時期に業務プロセスごとの内部統制評価を行います。この段階で、具体的な業務フローを分析し、それぞれのフローにおけるリスクと内部統制を評価します。
  • 決算・財務報告プロセスの評価
    3月の決算を超えて、年度決算末及び四半期決算末のタイミングで、決算プロセスと財務報告プロセスの統制が適切であるかどうかを評価します。
  • 不備の是正
    IT全般に関する統制の評価と業務プロセスの評価過程で見つかった不備は、速やかに是正します。この作業は年明けの2月までに完了することが理想的です。
  • 是正後の統制評価
    是正した後、2~3月頃に再度統制評価を行い、不備に適切な対処がなされているかどうかを確認します。
  • 不備の評価
    その後、不備が財務報告に重大な影響を及ぼすかどうかを評価します。これは、内部統制報告書の信頼性の担保のために重要です。
  • 内部統制報告書の作成、承認、提出
    最終的に、6月末の期限までに内部統制報告書を作成し、経営者の承認後、提出します。これには、評価の結果と、発見された不備に対する是正措置が記載されなければなりません。

このスケジュールは、内部統制が適切に実施されているかを外部に示すためのものであり、投資家や関連するステークホルダーに対する信頼を構築するために不可欠です。全てのプロセスは、内部統制の有効性を維持し向上させるための連続的な取り組みの一部であると理解することが重要です。

内部統制報告書作成のポイント

内部統制報告書の作成は、IPOを目指す企業において重要です。

内部統制報告書は、会社の内部統制の有効性を評価し、財務報告の信頼性を担保するための報告書となります。ここでは、内部統制報告書の主な記載事項、その文書化の方法、および必要な3点セットの準備について解説します。

内部統制報告書への主な記載事項を理解する

内部統制報告書には、以下の5つの項目を含む必要があります。そのため、あらかじめ記載事項を理解することが大切です。

  • 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
    会社の代表者である経営者と最高財務責任者などが内部統制の責任を負っていること、特定の準拠する基準・枠組みの名称、および内部統制が虚偽の情報を完全に防止できない可能性を明確に記載する必要があります。
  • 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
    評価が行われた基準日、評価の基準、評価手続の概要、および評価の範囲について簡潔に記述します。
  • 評価結果に関する事項
    内部統制が有効であるかどうか、または重要な不備がある場合、その内容と是正されない理由を記載します。
  • 付記事項
    事業年度終了後から内部統制報告書提出日までに起こった重要な出来事があれば記載します。
  • 特記事項
    特別に記載すべき事項がある場合に記載します。

内部統制の文書化を行う

内部統制の有効性を保証するためには、証拠が必要となるので、評価結果の文書化は不可欠です。通常は以下で説明する、業務記述書、フローチャート、リスクコントロールマトリクスの3点セットが主に用いられます。

内部統制報告書の3点セットを準備する

内部統制報告書の3点セットには、以下のものが含まれます。

  • 業務記述書
    企業の業務の流れを言語化し、使用しているシステムや帳票などの具体的な情報を記載します。
  • フローチャート
    業務記述書の内容を視覚的に表現し、業務の流れや関連部署、取引の発生から集計・記帳までのプロセスを示します。
  • リスクコントロールマトリクス 
    各業務におけるリスクとそれに対するコントロール手法を一覧化します。これにより、リスクの把握と適切なコントロールの確立が可能です。

これらの文書は、内部統制報告書を作成する際の基盤となり、企業が内部統制の有効性を評価し、監査人や利害関係者に対してその結果を明示するのに役立ちます。内部統制報告書を作成するためには、これらの文書化されたプロセスが重要です。

内部統制の文書化について詳しくは下記の記事も参考にしてください。

内部統制3点セットとは?Excelで作成するメリットやコツも紹介

内部統制には文書化はどうやるべき?3点セットが重要である理由を解説!

まとめ

IPOを目指す企業にとって内部統制の整備は重要です。内部統制監査報告書については、要件を満たせば上場後3年間免除されるものの、内部統制報告書の作成が免除されているわけではありません。したがって、IPOを目指すのであれば、IPOの準備と並行して内部統制の整備と適切な運用の準備を進めていく必要があります。内部統制の整備と運用を有効なものにすることは、企業にとって単なる負担となるばかりではありません。内部統制をしっかりと整備することは、企業の収益性や持続的な成長のために不可欠な要素であると認識することが大切です。



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